錬金術つかい(寛訳8)(“El Alquimista”)

老女は少年を家の奥、色とりどりなビニールの帯のカーテンで居間と仕切られた部屋に案内した。その中には机、イエスの聖心の肖像そして椅子が二つあった。

老女は座って同じく勧めた。それから手をとって小声で祈り始めた。

ジプシーの祈りのようだった。少年は道中ですでに多くのジプシーと出会っていた。ジプシーは旅をしていたが、しかし、羊の世話はしていなかった。その人生ずっと他人を騙しているばかりだと人々は言った。また悪魔と契約しているだとかその不思議なキャンプの奴隷にするために赤子を誘拐しているだとか言った。小さいころ少年はジプシーに誘拐されるのをいつもとても恐れており、老女がその手を捉えている間にこの昔の恐れが甦ってきた。

『でもイエスの聖心の肖像を持っている』、落ち着こうと努めて思った。その手が震え始めて老女が彼の恐れを感じ取るようなことになってほしくなかった。静かに主の祈りをした。

「これは面白い」、老女は少年の手から目を離さずに言った。それから再び黙った。男の子は不安になりつつあった。妨げるすべもなく、彼の手は震え始め、老女はそのことに気づいた。彼は両手を素早く引き戻した。

「手相を見てもらいたくてここに来たのではありません」、すでにその家に入ったことを後悔しながら、言った。相談料を払って何も知らずにそこから出るのが良いのではとしばし思った。繰り返し見た夢のことがとても大事だった。

「夢のことを知りたくて来たんだろう」、老女は応えた。「そして夢は神の言語だ。神が世界の言語を話すとき、私はそれを解釈することができる。だがもしお前の魂の言語を話すようだったら、それはお前だけが理解することができる。そしていずれにしても相談料をいただくよ。」

『またからくりだぞ』、少年は思った。しかし、賭けてみることにした。羊飼いはいつだってオオカミや日照りの危険をおかし、このことが羊飼いという職業を最も刺激的なものにするのだ。

「同じ夢を二度続けてみたんです」、言った。「牧草地に羊たちを一緒にいたら少年が現れて羊たちと遊び始める夢です。誰かが羊たちの中に入っていくのは好きじゃないんです、よそ者には怯えてしまうから。でも子供たちはいつも怯えさせることなく動物たちを触ることができる。どうしてなのかわかりません。どうやって動物たちは人間の歳を知ることができるのだろう。」

「お前の夢の話に戻りなさい」、老女は言った。「鍋を火にかけてるんだよ。それに、お前はほとんどお金を持っていないんだから私の時間をそんなに取ったりできないよ。」

「男の子はしばらく羊たちと遊び続けて」、少年は少し慌てて続けた、「そしていきなり僕の手をつかんでエジプトのピラミッドまで連れて行ったんです。」

男の子はエジプトのピラミッドについて老女が知っているか見るために少し間を置いた。しかし老女は黙ったままだった。

「そしたら、エジプトのピラミッドで」、最後の三語[訳注:「エジプトのピラミッド」]をゆっくりと、老女がよく理解できるように発音した、「男の子が僕に言ったんです、『もしここまで来たら隠された宝物を見つけることができるよ』。そして、僕にその正確な場所を見せてくれようという時に、目が覚めたんです。二度とも。」

老女はしばらくのあいだ黙り続けていた。それから再び少年の手をとって注意深く見た。

「今のところはお前に何も請求しないよ」、老女は言った、「でももし宝物を見つけたらその十分の一をおくれ。」

少年は笑って、嬉しがった。隠された宝物についての夢のおかげで持っていた僅かなお金を節約できそうだ!老女は本当にジプシーに違いなかった、というのもジプシーは愚か者なのだ。

「それでは夢を解釈してください」、お願いした。

「その前に、誓いなさい。私がお前に言うことの引き換えに宝物の十分の一を私によこすと誓いなさい。」

男の子は誓った。老女はイエスの聖心の肖像を見ながら誓いを繰り返すよう言った。

「これは世界の言語の夢だ」、彼女は言った。「解釈することができる、かなり難しい解釈にはなるが。だからお前の探し物のうちの私の取り分に値するわけだ。ではこれが解釈だ。エジプトのピラミッドまで行かないといけない。それについて聞いたことはないが、男の子がお前にそれを見せたというのならそれは存在しているからだ。そこでお前を豊かにする宝物を見つけるだろう。」

少年は驚いてそれから苛立った。こんなことのために老女を探す必要などなかった。終いに何も払わないと心に刻んだ。

「こんなことのために僕の時間を無駄にすることはなかった」、言った。

「だからお前の夢は難しいと言っただろう。単純なことは最も逸脱していて、賢者だけがそれを見ることができる。私は賢者ではないから、他の技法も使わないといけない、手相読みのようなね。」

「それでどうやったらエジプトまで行けるのです?」

「私は夢を解釈するだけだよ。それを現実に変換することはできない。だから私は娘たちがくれるもので生きていかなくちゃならない。」

「それでもしエジプトまで行かなかったら?」

「お金は請求しないでおくよ。初めてのことでもない。」

そして老女はもう何も言わなかった。もう多くの時間を費やしていたので、少年に出ていくように言った。

~続く~


ジプシーの老女が夢占いをする場面。

ところでジプシーってよく聞くけどあんまり正確に理解していないと思った。

「ヨーロッパに散在する少数民族ロマの他称。エジプトから来たとする誤解から生まれた呼び方。 → ロマ」(三省堂 大辞林 第三版)。
で、ロマというのが、「ヨーロッパを主に,各地に散在している少数民族。原住地はインド北西部とされる。数家族から十数家族で移動生活を送ってきたが,現在ではその多くが定住。ロマーニー語を話し,音楽をはじめ,独自の文化をもつ。ナチスによる絶滅政策など,各地で厳しい迫害を受けてきた歴史をもつ。」(三省堂 大辞林 第三版)。

つまり、インド北西部を起源に持ってヨーロッパで移動生活をしてきた民族。エジプトから来たと思われていた時期もあってその名称がジプシーだが、正しくはロマ。様々な迫害を受けてきた。ということらしい。

もう少し調べると、ジプシーという呼称は差別的ということで、1971年の世界ロマ会議で「ロマ」が正しい呼称になったみたい。

O Alquimistaは1988年にブラジル人作家により発表された作品。なおブラジルにもかなり多くのジプシー/ロマ人がいるらしい。

この物語がどういう時代設定で書かれているのかはわからないけど、かなり露骨な民族差別的な言葉がこの節では出てきていて、ん、なんだろうと思ったのでした。

今節ではelがわからないな、というのがあった。「si fue un niño el que te las mostró es porque existen.」の el que 。「男の子がお前にそれを見せたというのならそれは存在しているからだ。」と訳してみたけども。たぶん外れてはいないんだけど、しっかり理解できてないなあ。

上着や少年に意図があるように、一つ一つの言葉にも意図があるはずなので、それをちゃんと汲みとれないときは悲しく悔しく申し訳ない気持ちになる。だめだなあ。こうやって記録しておいて、いつか誰かに教えてもらおう。

今節にかかった時間、およそ2時間。結構かかった。

今日の写真はインド西部、JaipurとAhmedabadとの間のどこかの写真。2007年6月30日撮影。大学院生でした。コンセプト不明。

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