錬金術つかい(寛訳14)(“El Alquimista”)

次の日、少年は老人と正午に会った。六匹の羊を連れていた。

「驚きました」、言った。「友人がすぐに羊たちを買ったんです。人生ずっと羊飼いになることを夢見ていたからこれは良い兆しだと言っていました。」

「いつもそうなんだよ」、老人は言った。「これを恵みの始まりと呼ぶ。初めてカードゲームをやると、ほとんど間違いなく勝つことになるだろう。始めたばかりの人の幸運なんだよ。」

「それはどうして?」

「なぜなら人生は君に君の私伝説を生きてほしいからだよ。」

それから六匹の羊たちを調べ始めてそのうち一匹が足を引きずっているのを見つけた。少年はそのことは重要でない、というのもこれが最も賢いしとてもたくさんの羊毛を作るのだからと説明した。

「宝はどこにあるの?」質問した。

「宝はエジプトにある、ピラミッドの近くに。」

少年は驚いた。老女も同じことを言ったが、何も請求しなかった。

「そこへ着くためには、しるしをたどらないといけない。神はこの世にそれぞれの人がたどるべき道のりを記した。神が君のために記したものを読み取らなくてはいけないだけだよ。」

少年が何も言い出さないうちに、一羽の蝶が彼と老人の間をひらひらと舞い始めた。祖父のことを思い出した。小さいころ、祖父は彼に蝶々は幸運のしるしだと言った。キリギリス、てんとう虫、ヤモリ、四つ葉のクローバーのように。

「これは」、彼の思いを読むことのできる老人は言った、「まさしく君のおじいさんが教えたとおりだよ。これがしるしだ。」

それから老人は胸を覆っていたマントを開いた。少年は見たものに心動かされ、前日に気づいた光を思い出した。老人はすばらしい石に覆われた金無垢の十字架をつけていたのだった。

まさしく王だった。暴漢を避けるためにこのように変装しているのに違いなかった。

「ほら」、老人は言って、金の十字架の真ん中に留められていたひとつの白い石とひとつの黒い石を取り出した。「ウリムとトゥミムという。黒は『はい』という意味で白は『いいえ』という意味だ。しるしを感じ取るのに難儀したとき、役に立つだろう。必ず公平な質問をすること。だけど普通は君が決断をするように努めなさい。宝はピラミッドにあってこのことは君はもう知っていた、でも君が決断するのを私が助けたので六匹の羊を払わなくてはならなかったんだよ。」

少年は石をかばんにしまった。これから先は、自分自身の決断をするのだ。

「全てはただひとつのことだということを忘れずに。それから、何をおいても、君の私伝説の最後までたどり着くということを忘れずに。」

≫その前に、しかし、ひとつ短い物語を聞かせてあげよう。

≫ある商人が全ての人間のうち最高の賢者のもとで幸福の秘密を学ばせようとその息子を送り出した。若者は四十日のあいだ砂漠を歩いて山の高原にある美しい城にたどり着いた。そこに探していた賢者が住んでいた。

≫しかし、聖人然とした人に出会うどころか、我らの英雄は居間に入ってものすごい活動を見た。出入りする商人たち、隅で話している人々、穏やかな旋律を奏でる小さな楽団そしてこの世のこの地方の最もおいしいご馳走でいっぱいの食卓だった。賢者は皆と話していて、若者は相手をしてもらうその時がくるまで二時間待たなければならなかった。

≫賢者は彼の訪問の意図を注意深く聞いたが、その時には幸福の秘密を説明してやる時間がないと言った。彼の宮殿を散歩して二時間後に戻ってきてはどうかと提案した。

≫「だけど一つ頼みたいことがある」、小さなティースプーンに二滴の油を落として渡しながら、賢者は締めくくった。「歩いている間、このスプーンを持って行ってくれ、油をこぼさないように注意しながらね。」

≫若者は宮殿の外階段を上ったり下りたりし始め、ずっとその目はスプーンに釘付けにしていた。二時間が過ぎて、賢者のもとへ戻った。

≫「どうだった?」賢者は尋ねた。「食堂にあるペルシャのタペストリーは見たかい?庭師の名人が作るのに十年かけた庭は見たかい?書庫の美しい古文書には気が付いたかい?」

≫若者は、恥じ入り、何も見なかったと告白した。彼の唯一の心配は賢者が彼に託した油の滴がこぼれないようにすることだったのだ。

≫「そういうことだったら戻って私の世界のすばらしいものを見てきなさい」、賢者は言った。「その者の家を知らないんだったらその者を信用してはいけないよ。」

≫これでもっと落ち着いて、若者はスプーンを取って宮殿の散歩に戻り、今度は天井や壁を彩る全ての芸術品を注意深く見た。庭々、周りの山々、花々の繊細さ、それぞれの芸術品がその場所に置かれた入念さを見た。賢者の元へ戻ると、見たもの全てについて詳しく報告した。

≫「でも君に託した二滴の油はどこだい?」賢者は尋ねた。

≫若者はスプーンを見てそれをこぼしてしまったことに気づいた。

≫「ではこれが私から君にあげられる唯一の忠告だよ」、賢人の中の賢人が言った。「幸福の秘密は世界の全てのすばらしいものを見ることにある、ただし決してスプーンの二滴の油のことを忘れることなくね。」

少年は黙っていた。老王の物語を理解していた。羊飼いは旅をすることが好きだが、断じてその羊のことを忘れてはならない。

老人は少年を見て伸ばした両手で彼の頭上で何か不思議なしぐさをした。それから羊たちを連れて彼の道をたどっていった。

~続く~


2時間10分。

賢者、いい生活しとるやないかい。少年、物分かりがめっちゃよくなったな。

この節の最後、老人がただ「去った」と言うのではなくて、「siguió su camino/彼の道をたどっていった」と言っているのが、味があるなあと思った。前出のこの句を受けてる。

Dios escribió en el mundo el camino que cada hombre debe seguir. Sólo hay que leer lo que Él escribió para ti.

寛訳:神はこの世にそれぞれの人がたどるべき道のりを記した。神が君のために記したものを読み取らなくてはいけないだけだよ。

王もその道をたどっているのだなあ。うむうむ。

スペイン語的によくわからなかったのは、細かいけど、少年が石をしまうところ。

El muchacho se guardó las piedras en la alforja.

寛訳:少年は石をかばんにしまった

訳は別に良いと思うけど、このseは、何け?いるが?これまでの文章を振り返っても、僕は代名詞が苦手なんだなというのがけっこうわかってきた。

ところでこれに続く句、僕のけっこう好きなスペイン語表現がでてきています。

De ahora en adelante, tomaría sus propias decisiones.

寛訳:これから先は、自分自身の決断をするのだ。

この、De ahora en adelanteが好きなんです。一番簡単に訳すと「今後は」なのだろうけど、この表現は目線がまず「今」にあって、それから少しずつ顔を上げてその先を見ている気がして。なかなかこれにピッタリくる訳が思い浮かばず、妥協含みで「これから先は」にしました。でも本当はもっと「今」を見つめている感じがしています。

そんな今日の写真は、スプーンの写真を探そうかと思ったけど、メーデーだということに気づきまして。もうそれなりに知られつつあるようですが、フランスでは5月1日にスズランを家族や友人に贈るという風習があります。そんなわけで2013年5月、フランスのヴィシー、ホストマザーにもらったスズランです。

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