錬金術つかい(寛訳23)(“El Alquimista”)

少年は日が出る前に目覚めた。彼がアフリカ大陸を初めて踏みしめてから十一か月と九日が過ぎていた。

彼はアラブの服、白い麻でできた、その日のために特別に買ったものを着た。頭にはスカーフを着け、ラクダの皮でできた輪で留めた。新しいサンダルを履いて物音を立てずに降りた。

町はまだ眠っていた。胡麻のサンドイッチを用意してガラスの水差しで熱い茶を飲んだ。それから戸口に座って一人で水タバコを吸った。

静かに吸った、何も考えることなく、砂漠の匂いを連れてくる、吹きつける風の常に一定な音だけを聞いていた。吸い終わり、ポケットのひとつに手を入れてそこから取り出したものをしばらくのあいだ見つめていた。

大きな札束があった。百二十匹の羊、戻りの切符そして彼の国といる国との間での商売の許可証を買うのに十分な金だった。

老人が起きて店を開けるのをじっと待った。それから二人はもっと茶を飲みにいった。

「今日発ちます」、少年は言った。「自分の羊を買うお金があります。あなたはメッカに行くお金があります。」

老人は何も言わなかった。

「祝福の祈りをお願いします」、少年は強く頼んだ。「あなたは私を助けてくれました。」

老人は黙って茶を用意し続けた。しばらくして、おもむろに、少年に向き直った。

「君のことを誇りに思う」、言った。「君は私のガラスの店に魂をもたらしてくれた。でも私がメッカに行かないのはわかっているね。君が再び羊を買うことのないのをわかっているように。」

「誰がそう言ったのです?」驚いて、少年は尋ねた。

「マクトゥブ」、年老いたガラス商人はただそう答えた。

そして彼に祝福の祈りをした。

~続く~


43分。

ついに、再び旅立ちへ。大事な場面ではいつも風が吹いているのね。そしてガラス商人のおやじ、なかなか気が利いているというか、渋い演出である。黙った後でいきなり「君のことを誇りに思う」とか、良い。そして「マクトゥブ」の短い返事も、良い。

これアラブ語をしっかり勉強したら、このマクトゥブの深さもわかるのかな?記されている、とか言ってたけど、ただのwrittenだったら天才サンチアゴ少年にはもうお見通しだったはずだ。うん、そのうちアラブ語を勉強したら改めて調べてみよう。

今節はスペイン語もけっこうシンプルだったので特に取り上げたいところはないかな。強いて言えば前半にse vestió, se colocó, se calzó等々、verbos pronominals/再帰動詞がたくさん出てきたのは、おぅ畳みかけてくるなと思った。動詞の目的語に自分自身を持ってきて、自分に服を着せる=服を着る、自分にスカーフをつける=スカーフを着ける、自分に靴を履かせる=靴を履くっていう感じ。スペイン語では普通に出てくるし、フランス語でも常用される表現。英語にはないかな?

日本語にそういうのないかなー。自分を戒める→自戒、自分を信じる→自身、自分を制する→自制、などなど。自を持ってくれば再帰的になるけど、なんだか精神的なものが多いなあ。「服を着る」みたいにもっと日常行為に即したものってないだろうか。あ、自首する・・・?しません!心当たりないから!

うーん、言葉って面白いし、日本語も奥深いものだと思うから、何かあると思うけど、見つからない。でも探し続けてみよう。どなたか何か思い当たる言葉あれば教えてください!

今日の写真はインド南東部、チェンナイとバンガロールとの間の村で茶を飲んだときに見た、トラックの安全の祈り。ライムか何か果物らしき小さいものに火をつけてフンフンやって、最後にナンバープレートに果汁をこすりつけて合掌してた。面白いの。南アジアはトラック自体もなかなか奇抜なデコレーションされてるのが多かったなあ。2011年12月。

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