錬金術つかい(寛訳25)(“El Alquimista”)

そのイギリス人は建設現場の中に座って、動物たち、汗そして埃のにおいを嗅いでいた。それを集積所と呼ぶことはできなかった、せいぜい囲い場だった。『僕の全人生はこういう場所を通らなくちゃいけないことになってるんだ』、気もそぞろに化学雑誌をめくりながら思った。『十年の学習が僕をこの囲い場に導くとはね。』

しかし前進し続けることが必要だった。しるしを信じなくてはならなかった。彼の全人生、彼の全学習は宇宙により話される唯一の言語の探求に集中していた。まずはエスペラント語に興味を抱き、それから宗教そして最終的に錬金術に興味を抱いた。エスペラント語を話すことができ、多様な宗教を完全に理解していたが、まだ錬金術師ではなかった。大事なことを解読できたのは本当だ。だが彼の調査はある点まで到達したがそこから先に進めることはできないのだった。無駄なことにもある錬金術師と連絡をとろうと試みたが、錬金術師というのは変わった人々でありもっぱら自分自身のことを考えているだけでほとんどいつも助けを与えることを拒んでいた。大いなる業–賢者の石と呼ばれるもの–の秘密を解明していなくても誰にわかるだろう、そしてそのため沈黙のなかに閉じこもっているのだった。

彼の父が残した財産の受取り分はすでに費やしてしまった、賢者の石を無駄に探すなかで。世界で最高の図書館に照会して錬金術に関する最も重要で最も珍しい本を買っていた。その一冊に、何年も前、有名なアラブの錬金術師がヨーロッパを訪ねていたことを発見した。彼については二百歳以上で、賢者の石と長寿の霊薬を発見したとあった。イギリス人はその物語に感激した。しかしこれはひとつの伝説であるにすぎなかっただろう、もし彼の友人が砂漠での考古学探検から戻って、並外れた力を持つアラブ人の存在について彼に話をしなかったならば。

「アル・ファヨウムのオアシスに住んでいる」、彼の友人は言った。「そして人々は彼が二百歳でどんな金属でも金に変えることができると言うんだ。」

イギリス人はこれほどの感激に耐えることはできなかった。すぐさま全ての約束事を取りやめ、より重要な本をまとめて今そこに、その囲い場のような蓄積所におり、他方その外では巨大なキャラバンがサハラを横断する準備をしているのだった。

そのキャラバンはアル・ファヨウムを通った。

『この忌々しい錬金術師に会わないといけない』、イギリス人は思った。

そして動物たちのにおいがもう少し許容できるものになった。

ある若いアラブ人が、同じく旅行かばんをいっぱい持って、イギリス人のいた場所へ入って彼に挨拶をした。

「どこへ行くんだい?」若いアラブ人は尋ねた。

「砂漠だよ」、イギリス人は応えて読書に戻った。今は会話したくなかった。十年間で学んだ全てのことを思い出さなくてはならなかった、なぜなら錬金術師は必ずや彼に何らかの類の試験を課するだろうからだ。

その若いアラブ人は本を取り出して読み始めた。本はスペイン語で書かれていた。『なんて幸運なんだ』、イギリス人は思った。彼はアラブ語よりもスペイン語のほうが上手に話せたし、それにもしこの少年がアル・ファヨウムまで行くなら、大事なことで忙しくない時に会話をする相手がいるということだ。

~続く~


1時間35分。

出ましたイギリス人。年齢不詳ながら、サンチアゴ少年から馴れ馴れしく話しかけられているあたり、そんなに年取ってるわけでもなさそうだ。

そして、出ました錬金術師!本編の中でel Alquimista/錬金術師という語が出てきたのはこれが初めてのはず。やあ、ようやくそれっぽくなってきました、キャラバンの準備も進んでるし。わくわくですね。

さて今回はスペイン語小話として取り上げたいのが大量にあるので、長くなり過ぎないようにサクサク行きたいと思います。

ひとつめ、revista/雑誌という単語。これ英語で直接的に訳すとreview/レビュー・見直しになるけど、これが雑誌なのですね。フランス語でもrevueという同じつくりの語が雑誌という意味を持っていて、興味深い。雑誌とは物事を見直したり評価したりするものである、ということだろうか?もしそうだとすると日本語の「雑」+「誌」という語は少しというかかなり意味合いが違う気がする。

ふたつめ、descubrir/発見するという動詞。これフランス語で同じ意味のdécouvrirという動詞を勉強したときに、couvrir/覆うの反対(dé)だから発見するのねと気づき、あ、英語のdiscoverもcoverの反対っていうつくりだったのか!!と初めて気づいて感動したんですが、スペイン語も全く同じでcubrirの反対でdescubrirしてます、という話。

みっつめ、Piedra Filosofal/賢者の石。これ辞書でfilosofalをひくと説明がたったの一言「piedra filosofal 賢者の石」だけなのです。その他の説明なし。でも不思議よね、filosof– までが同じ語は他に5つあって、filosofar/哲学する、folosofastro/tra/えせ哲学者、filosofía/哲学、filosófico/ca/哲学の、filósofo/哲学者、といった具合に全て「哲学」が意味に含まれているのに、filosofalだけ賢者の石。これ、最初にこの概念が日本に持ち込まれたときにそういう語を当てはめたら、それが思いがけずしっかり定着して残ったということなんじゃないかなーと思います。

最後よっつめ、あまり得意でない仮定の話がガッツリ出てきている以下の文章。これはすんません単なる自分の復習用メモです。

Pero esto no habría pasado de ser una leyenda más si un amigo suyo (…) no le hubiese hablado sobre la existencia de un árabe que tenía poderes excepcionales.

寛訳:しかしこれはひとつの伝説であるにすぎなかっただろう、もし彼の友人が(…)並外れた力を持つアラブ人の存在について彼に話をしなかったならば。

「no habría pasado de ser/であるにすぎなかっただろう」がcondicional perfectoになっていて、
「si un amigo suyo (…) no le hubiese hablado/彼の友人が話をしなかったならば」がsi + pretérito pluscuamperfecto de subjuntivoになっている。

おまけ、いつつめは日本語。「どんな金属でも金に変える」と自分で書いて気づいたのだけど、金属って不思議な言葉というか。語のかたちとしては「金の属」と書いて、金に類するものたち総体をグループ化してるんだと思うけど、これは言うなれば山口さんのチームに属するものの総体を山○組と呼んでいるようなもので、山口さんのものすごく強い求心力というか中心性を感じさせるのと同じような語だと思う。つまり金属もものすごい縦社会を形成しており金がその頂点を極めていて、そうするとなおさら錬金術が「金属を金に変える」ということがものすごい奇跡であるということがよくわかる。ノコノコがみんなクッパになるようなものである。

長くなりました。写真いきます。イギリスの首都ロンドン、バッキンガム宮殿の衛兵交代式。衛兵さんのきびきびとした動きもさることながら、よく躾けられたお馬さんに感心した記憶があります。見学者、密!衛兵、ソーシャルディスタンス!2014年7月。

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