錬金術つかい(寛訳32)(“El Alquimista”)

ある良き日に少年はイギリス人に本を返した。

「それで、たくさん学んだかい?」、相棒は尋ねた、大いに期待して。戦争への恐怖を忘れるため一緒に会話をする誰かを必要としていた。

「世界は魂を持っていることとその魂を理解する人が物事の言語を理解するということがわかったよ。たくさんの錬金術師がその私伝説を生きてとうとう世界の魂、賢者の石と長寿の霊薬を見つけたということもわかった。」

≫だけど何よりも、こうした事柄はとても単純で一枚のエメラルドに書けてしまうということがわかったよ。

イギリス人は落胆した。何年もの研究、魔法の記号、難解な言葉、研究室の装置、こうしたものは何も少年に印象を与えていなかった。『あまりにも魂が未発達でこれを理解できないに違いない』、心のうちで自らに言った。

自分の本を取りラクダに吊り下げていた袋にしまった。

「君のキャラバンに戻るんだね」、言った。「こいつも僕に大したことを教えてくれなかったよ。」

少年は砂漠の沈黙と動物たちに巻き上げられる砂を再び見つめた。『それぞれに学び方がある』、自分自身に繰り返した。『彼のやり方は僕のそれではないし、僕のそれは彼のそれではない。でも僕らは二人とも自分の私伝説を探していて、僕はだから彼のことを尊敬している。』

~続く~


30分。

もうサンチアゴ少年とこのイギリス人の仲は修復困難ではないか、そんな印象をうけるやり取りのあとで、「彼を尊敬している」の一言。なんとまあ!試合では激しくぶつかるけど私生活ではめっちゃ仲良しなんですよ~、とか言ってるチームメイトか!

スペイン語的にはとくに難しいところなかった。なので何となくちょっと好きな表現のところを。

»Pero sobre todo, aprendí que estas cosas son tan simples que pueden ser escritas sobre una esmeralda.

寛訳:≫だけど何よりも、こうした事柄はとても単純で一枚のエメラルドに書けてしまうということがわかったよ。

スペイン語のsobre todoっていう表現がなんだか好きなんです。英語はそのままabove all、フランス語だとsurとtoutとがくっついてsurtoutになるのが面白い。日本語では文字通りいくと「全部あるその上で」というニュアンスで、自然な表現に置き換えると「何より」あたりだと思うけどそれだとmás que todoのほうが対応している感じがするわけで、したがってこのsobre todoにしっかりそのまま対応する日本語がたぶんないような気がして、好きなのです。

ちなみに文法チェックてきにはここson tan simples que pueden ser…のtan + queで「あまりに~だから~だ」の形になっていて、従属節が直説法になっているけど、主節が否定形だったら従属節は接続法になるわけですね。同じ文を書き換えるなら、estas cosas no son tan difíciles que puedan ser escritas../これらはそんなに難しくないから書ける、と。この接続法の感覚はフランス語の時にも学んだのでおよそ掴めているのだけど、日本語でうまく表現できない。もう一歩ちゃんと理解しないといけないなあと思うところです。

今日の写真はカンボジアの首都プノンペン郊外で見かけたバイクおばさん。彼女の乗り方は僕のそれではないし、僕のそれは彼女のそれではない。でも僕らは二人ともラクな服装が好きで、僕はだから彼女のことを尊敬している。2009年12月。

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