錬金術つかい(寛訳37)(“El Alquimista”)

翌日少年は井戸に戻り、少女を待った。驚いたことに、そこでイギリス人とばったり出会うと、彼は初めて砂漠を見ていた。

「午後ずっと待ったんだ」、彼に言った。「そして夜に彼は一番星たちとともにやってきた。探し求めていたものについて彼に話したよ。そうすると彼は僕にもう鉛を金に変えたことがあるかと尋ねて、それで僕はそれが学びたかったことなんだと彼に言ったんだ。」

≫それで僕にやってみろと命じたんだ。僕に言った全てのことはこれさ、『さあやってみなさい』。

男の子は沈黙を守った。イギリス人はこれだけの旅をしてきてもう知っていたことを聞いたのだ。その時彼は同じ理由のために六匹の羊を年老いた王に渡したことを思い出した。

「それじゃあ、やってみるんだね」、イギリス人に言った。

「それがやろうとしていることさ。もう今始めるよ。」

イギリス人が行ってしまって少ししてからファティマが水がめで水を取ろうとやってきた。

「君にある単純なことを言いに来た」、男の子は言った。「僕の妻になってほしい。君を愛している。」

少女は水がめが水をこぼすがままにした。

「君を毎日ここで待とう。ピラミッドの近くにある宝を探して砂漠を渡った。戦争は僕にとって天罰だったけど、君の近くにいさせるのだから今では天恵だ。」

「戦争はいつの日か終わるわ」、少女は言った。

少年はオアシスのナツメヤシの木々を見た。羊飼いだった。そしてそこにはたくさんの羊たちがいた。ファティマは宝よりも大切だった。

「戦士たちはその宝を探す」、若い女は言った、あたかも少年の思いを見抜いていたかのように。「そして砂漠の女たちはその戦士たちを誇りにするの。」

それから再び水がめを満たして去った。

毎日少年はファティマを待つため井戸へ行った。羊飼いの人生、王との出会い、ガラスの店での滞在の話をした。友人になりそして、彼女と過ごす十五分を除いて、日の残りは彼にとって限りなく遅く過ぎるようになっていた。オアシスでもうほぼ一か月になろうというとき、キャラバンの隊長は全員を集会のために呼び集めた。

「いつになれば戦争が終わろうというのかわかりません、なので旅を続けることができません」、言った。「戦いは長いあいだ、ひょっとしたら何年ものあいだ続くでしょう。双方に強く勇敢な戦士たちがいて、双方の軍隊に戦いの名誉がある。良きものたちと悪しきものたちの戦争ではないのです。これは同じ力を持って戦う勢力間の戦争で、こうした種類の戦闘が始まるときには他のものよりも長く続くのです、なぜならアラーがふたつともの側にいるからです。」

人々は解散した。少年はその午後にファティマと再び落ち合って集会について話した。

「私たちが会った二日目」、彼女は言った、「あなたは愛について話してくれた。それから美しいことたち、世界の言語や魂のようなことについて教えてくれた。こうした全てが私を少しずつあなたの一部にしているの。」

少年は彼女の声を聞いていてナツメヤシの葉の間の風の音よりもきれいだと思った。

「ずっと前からこの井戸のここにいて、あなたを待っていたの。思い出すことができないの、私の過去、しきたり、男たちが砂漠の女たちの振舞いに期待している仕方を。小さいころから砂漠が私の人生の最大の贈り物をもたらしてくれることを夢見ていたわ。その贈り物はやってきた、ついに、そしてそれはあなたよ。」

少年はその手に触れたい願望を感じた。しかしファティマは水がめの取っ手を持ち続けていた。

「あなたは私にあなたの夢、年老いた王そして宝の話をしてくれた。私にしるしの話をしてくれた。だから何も怖くないわ、なぜならあなたを私に導いたのはこれらのしるしだったのだから。そして私はあなたの夢、あなたの私伝説の一部なの、あなたがいつも言っているように。」

≫だから探し求めてきたその方向を続けてほしいの。もし戦争の終わりまで待たなくてはならないなら、とてもいいわ。でもその前に発たなくてはならないなら、あなたの伝説の方へ行って。砂丘は風と共に変わる、でも砂漠は同じであり続ける。私たちの愛もそうなるわ。

≫マクトゥブ–言った–。もし私があなたの伝説の一部なら、あなたはいつか帰ってくる。

~続く~


1時間44分。

んもぅ!サンチアゴ少年ったら大胆!そしてファティマはんもなかなか豪胆ねえ!ただまあ、昨日の節では「二人の目が合えばもうすぐわかるんやで」みたいなこと言ってたわりに、ファティマはんの反応はそこまで良くなかったけど。いや十分いいけどさ。

イギリス人はまー、頑張れっつー感じですな。持っている本の十分の一でも誰かに渡して来ればよかったのだよ。ちなみに何のために羊を六匹渡したのか、忘れてしまったアナタは第14節をチェック!

さて今日のスペイン語小話。ひとつはちょっと細かいけどしばらく。集会の後で。

El muchacho se volvió a encontrar con Fátima aquella tarde y le habló sobre la reunión.

寛訳:少年はその午後にファティマと再び落ち合って集会について話した。

これのseはなんだろう、と思ったのです。volver a…/再び~する、ということだろうに、se volver a…ってなんじゃい、強調のseかい?うーん、と思っていたのだけど、それに続くencontrarのあとがaじゃなくてconになっているところに気づき、ああencontrarse con/落ち合うをvolver aしてるんだ、というルーみたいな解決に至ったのでした。これencontrar a…/~に会うだけだったらseは要らなかったわけですな。

ところでこの同じ文、El muchacho volvió a encontrarse con Fátimaでも正しい文章だし同じ意味のはずです。このほうが僕が混乱したseの相方っていうのがしっかりくっついていて、わかりやすく思えるのだけども、スペイン語ではよくこういう飛び道具がでてくる。どうしてだろう、フランス語だと後ろに固めなくちゃいけなかったはずだよなあ(不安だけど)。その他、スペイン語では主語が前に来たり後ろに来たり、副詞とかも自由に配置されるので、そこが学習者にとってはある意味では柔軟でやりやすいながらも、これを母語とする人たちが一般的によく遣う語順はどんなものかとか、その語順に秘める意味合いがあるんだろうかっていうことは、逆につかみきれないような気持になります。

「どうか娘さんを僕にください」「娘さんを僕にどうかください」「どうか僕に娘さんをください」「娘さんをどうにかしてください」ではやはり意味合いというかニュアンスが違ってくる気がするので、日本語でも同じようなことが起きているような気はします。

次です。ファティマはんの語り終盤。

Este regalo llegó, por fin, y eres tú.

寛訳:その贈り物はやってきたの、ついに、そしてそれはあなたよ。

これ短くてシンプルな文章なんです。が、最後の一言、eres tú/あなたです。ここ、regalo/贈り物は、あなたです、なのだから、este regalo es túなんじゃなかろうか??と思ったわけです。ちなみにこれ、ポルトガル語の原作を見るとこうなってます。

O presente chegou, afinal, e é você.

Paulo Coelho. O Alquimista. Editora Paralela. Kindle Edition.

いやあ、西語と葡語って本当に似てるなあ!と思うわけですが、このéというのが西語のes、英語のisにあたるもののようです。つまり、原作の葡語ではes túっぽく書いている・・・いや違う!そうか、葡語のvocêというのは西語のvosにあたって、tú/君と同じ親しさを持ちながらusted/あなたと同じ活用なので、ここの原作はいわばes vosと書いているわけか。そうなると、西語の理解には何の足しにもならない(だからと言って消しませんけど)。

でもほら、All I want for Christmas is youでしょう。The gift is youなんじゃないの?この西語ではThe gift are youになってる。えー西語ってそういうものなの?そういうものならまあ、良いんだけどさ。。。

と思ってしつこく検索してみたら、どうやらそういうものみたいです。というか、これこそちょうど上に書いたスペイン語の柔軟さをもってすれば文法的にもきれいになる話なのかもしれず、este regalo eres tú、これをtú eres este regaloの並び替えと捉えれば問題ないのでありました。英語だったらYou are the giftと考えて、でも語順が変更可能ということ。

ここの文法解釈には100%の確信はないのだけど、soy yoとかeres túといった倒置表現が頻繁に遣われるスペイン語の特徴が、この場面で出ているのは確かだと思いました。

こういう表現って情熱的なラテンの歌とかでよく出てくるんだよね。ということで今日の写真はメキシコの首都メキシコシティ、ガリバルディ広場です。マリアッチと呼ばれる楽団がたくさん集って情熱的な歌を披露していて、またこの男たちのカッコイイを求めた服装、立ち姿、仕草が、なかなかたまらんなあ!と思ったのでした。2011年9月。その後は治安が悪化しているとかで残念ですが、よくなっていると良いな。

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