昔話へのご招待(のご紹介)

友人たちとの勉強会で、今度は僕の好きな「昔話」についての話をしたので、その発表メモを載せます。

番組のご紹介

ご紹介する話は全て、フランスに住んでいた2014年ごろから聞き始めたラジオ「小澤俊夫 昔話へのご招待」が基になっています。興味を持っていただけた人はぜひラジオを聞いてみてください!放送は番組ウェブサイト上で公開されていて2009年の初回から聞くことができます。(僕はいたく気に入ったので全部聞きました!)

放送時間:
FM FUKUOKA (金)12:30-12:55
FM北海道 (土)07:00-07:25
FM沖縄 (日)09:00-09:25

出演: 小澤俊夫&西本美恵子
提供:絵本の店 あっぷっぷ

【番組紹介】
この番組では、国際的な昔話の研究家、小澤俊夫先生をお迎えし、昔話の中から 現代の子育てや生き方のヒントにもなるメッセージをお伝えしております。
昔話の今に通じるおもしろさを、みなさんにお伝えしていければと思います。

小澤俊夫 昔話へのご招待

以下、自分の理解や記憶、断片的なメモ書きなどを基に構成します。誤解や記憶違いなどのために正確でない内容が含まれるかもしれませんこと、ご了承ください。(放送回もメモしておけばよかった…見つかった分は記載します)

昔話とは何か?

「昔々あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました」。よくあるこの始まり方に表れているように、昔話は時代、場所、登場人物を特定せずに語ることを特徴としています。この始まりに込められているのは「今から語ることは嘘ですよ、信じないでくださいね」という意味。昔話とは「伝承された作者不明の嘘の話」のことです。伝説や民話などの類似の言葉は以下のように整理されます(2018年1月5日放送)。

  • 昔話とは、伝承された作者不明の嘘の話。
  • 伝説とは、「本当のこと」として伝承された歴史の話。
  • 民話とは、昔話や伝説などの混合。
  • おとぎ話とは、創作話を含む嘘の話。
  • 童話とは、子供向けの創作話。
  • 神話とは、「本当のこと」として伝承された神が登場人物の話。権力者の後ろ盾としての意図を含む傾向がある。

日本における昔話は「こぶ取り爺さん」や「舌切りすずめ」に代表されるような教訓話が多いように思われがちですが、これは江戸から明治にかけてそれらが意図的に整理され強調された結果です。元来はそのようなものでなく、ただの嘘話、笑い話なのです。日本全体で昔話は30万話くらいあるのではないかというのが小澤先生の推測です(2012年10月19日放送)。

昔話はなぜ大切か?

身分の高い人たちの高級な着物や装飾が重要文化財として保存されることはよくありますが、それらは必ずしも大多数を占める一般的な人々の生活を反映するものではありません。昔話はごく普通の不特定多数の人たちが世代を超えて伝えてきた伝承文化であるという点に高い価値があります。

また昔話は「人類はみな繋がっている」ことの証拠でもあります。「The Types of International Folktales(国際昔話話型カタログ)」は世界中の昔話を集めてタイプごとに分類し整理したものですが、これを見ると「猿蟹合戦」も「こぶ取り爺さん」も「浦島太郎」も、世界の広い地域に分布する話であることがわかります。いつかの時代に昔話は大陸を渡り、様々な民族のなかで少しずつ形を変えながら、先祖から子孫へと伝わってきたのです(2016年8月5日放送)。

これは僕の考えですが、つまり昔話はそれぞれの民族の不特定多数の人々による伝承文化であると同時に、元をたどれば全ての人類が繋がっていることを示すものとして、とても大切な人類の伝承文化だと言えるのだと思います。

なお、僕たちはこうした大切な昔話の伝承の途中にいるのですが、口から口へと伝えられてきた昔話は物質的な形がないために軽視されてしまい、安易に改変されたり失われたりしやすいという問題があります。正しい形で伝承が続くように様々な努力が行われています。時代にあった言葉に直し、また「シンプルでクリア」という昔話の原則に沿った形で「再話」するという取り組みなどがあります。

昔話と子育て

グリム童話におけるシンデレラは舞踏会に3度行っていることをご存知でしょうか?昔話では同じ場面が何度も繰り返され、特に3度の繰り返しが多く用いられます。その時に適用されるのが「同じ場面は同じ言葉で語る」という文法です。舞踏会に向かうシンデレラの様子、舞踏会における王子の言葉などは、正確に同じ言葉で繰り返されます。

これは「もう知っているものにまた出会いたい」という子どもの欲求に応えるものです。子どもは毎日とても多くのことに初めて出会います。ハイハイしかできなかった子どもが立てるようになって初めて見る目線の世界、もっと大きくなって今度はブランコに乗れるようになって初めて感じる揺れる世界。こういう未知の世界に入っていくのは嬉しいのだけど、いつもちょっと不安がある。そんな時に子どもたちは、まだ何年という短い期間ではあるけれどもその間でもう知っているもの、お気に入りの毛布やぬいぐるみにもう一度立ち返って、自分を確認することで、安心してまた前に進むことができるようになるのです。

昔話は人類の知恵として子どもたちが求めているものをよく知っていて、「同じ場面は同じ言葉で語る」という仕組みを通して子どもの魂を安定させてやっていると言えるでしょう。だからこそ、昔話は決して繰り返しを省略したりせずに正しい形で伝承していかなくてはならないし、親や周りの大人は子どもたちに何度でも繰りかえして聞かせてあげることが大切なのです(2015年1月16日放送)。

また昔話には時おり残酷な場面が出てくるので子どもの成長に悪いという意見もありますが、小澤先生はそれには当たらないと言います。昔話には「残酷であっても残虐には語らない」という法則があり、例えば人や動物が体の一部を切ったところで血が流れることは基本的にありません。子どもにとって大事なことは主人公がどうなるかということですので、昔話はシンプルにクリアな形で血を流すことなく話を進めます。大人の勝手な想像で制限をかけないことが大切です。

また逆に、子どもの想像力・空想力を邪魔しないことも大切です。昔話をあつかった絵本などが多くありますが、最もよいのは覚えて語ってあげることです。絵を与えることで子どもの空想力が制限されてしまいます。飛び出す絵本などが敵うはずのない空想力を、全ての子どもは持っているのです。それに昔話はもともと口で語られ耳で聞かれてきたものですから、口で語るのが最も適した伝え方なのです。生の声で繰りかえし話してあげることで、話してくれた大人の表情やぬくもり、部屋の様子などの全てのことが子どもの記憶に刻み込まれ、そうして愛とともに昔話が伝承されていくのです。

本で昔話を覚える場合は「シンプルでクリア」という原則に照らして本を選ぶのが大切です。「昔ばなし大学再話研究会」など小澤先生が監修している本だと安心でしょう。なお昔話語るためのコツは、「最初はしっかり覚えて、語るときは頭の中でその場面を見ながら語る」だそうです。また、もし絵本を選ぶ場合には、絵そのものがしっかりしていること、子どもの空想力を助けるものであることなどが大切です。「相手は子どもなんだぜ」と6年がかりで一冊を仕上げることもあった赤羽末吉さんの絵本などが良いそうです。

昔話を聞かせてあげたらよい対象年齢は幅広いですが、幼稚園くらいだとまだ複雑な話がわからないので、短いお話がよいです。「鬼とあんころもち」という本はそのくらいの年齢層を対象にして作られたそうです。10歳前後くらいになると少しずつ長い話も聞けるようになってくるそうです。

昔話のおもしろ豆知識

グリム童話はグリム兄弟が集めた昔話集で、1812年に出た初版本のタイトルは「子どもと家庭のメルヒェン集」でした。なおグリム兄弟は生後間もなく亡くなった3人を除くと男5人・女1人の6人兄弟で、昔話集を作ったのはこのうち長男ヤーコプと次男ヴィルヘルムの二人でした。

このラジオのメインパーソナリティ、昔話の研究者である小澤俊夫先生の弟は指揮者の小澤征爾、次男は小沢健二、甥に小澤征悦。

口で発して耳で聞かれてきた昔話と音楽はとても似ているとして、ラジオのなかでは音楽についての話もよくあり、小澤征爾さんとの対談もあります。

日本の特に本州の昔話には学術界で「隣の爺型」と類型化されるものがあります。室町から江戸時代にかけて「隣」が強く意識された時期に生まれたものと考えられます。他の地域では川上と川下、貧乏と金持ちなどで対比されることが多いとのことです。

桃太郎は中国の桃源郷思想と古代ギリシャの叙事詩に由来していると考えられるそうです。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *