錬金術つかい(寛訳1)(“El Alquimista”)

序詞

錬金術師はキャラバンの誰かが持ってきていた一冊の本を取った。その巻には表紙がなかったが、その著者を特定することができた。オスカーワイルド。ページをくっていくとナルシソに関する物語が記されていた。

錬金術師はナルシソの伝説を知っていた。毎日湖へ行って自らの美貌に見とれていた美少年である。あまりにも自分自身に夢中になり過ぎたゆえにある日彼は湖に落ちて溺れ死んでしまった。彼が落下した場所には花が芽生え、その花を人々はナルシソと呼んだ。

しかしオスカーワイルドはこの物語をそのようには結んでいなかった。

ナルシソが死んだとき、オレイアスたちが到着し(森の神々である)、湖がかつての淡水湖から涙の塩水の甕になっているのを見た、というのである。

「どうして泣いているの?」オレイアスたちは尋ねた。

「ナルシソのために泣いているのです」湖は答えた。

「ああ、あなたがナルシソのために泣くのは不思議じゃないわ!」彼女たちは続けた。「結局、私たちもいつも森の中から彼を追いかけていたけれど、あなただけが彼の美しさを近くで見つめることができたのですもの。」

「でもナルシソは美しかったのですか?」湖は尋ねた。

「あなたの他に誰が知っているの?」驚いてオレイアスたちは応えた。「間違いなく、彼は毎日あなたの縁で屈みこんで自分に見とれていたわ。」

湖はしばらくのあいだ黙っていた。そして言った。

「私はナルシソのために泣いていますが、ナルシソが美しいとはついぞ気づきませんでした。」

≫ナルシソのために泣くのです、というのも彼が私の縁に立って屈みこむたびに私は、その彼の瞳の奥底に、反射した私自身の美しさを見ることができたから。

「なんて美しい物語だろう!」錬金術師は言った。

~続く~


ブラジル人作家Paulo Coelhoの小説、「El Alquimista」の寛訳を始めます。

フランスに留学した時にAntoine de Saint-Exupéryの「Le petit prince」を寛訳したことがあったので(これも古いブログから近いうちに移す予定)、いつか何かスペイン語の本も寛訳したいとずっと思っていました。

ただ、モーターサイクルダイアリーズ、ドン・キホーテは好きだけど長すぎる。百年の孤独は読んだことないけど見るからに長すぎる。ルベンダリオの本も気になるけど読んだことなくてわからない。などなど。なかなか巡り合えず。

そこに、昨年末で会社を辞めた時、日本人の同僚が日本語版の文庫本(邦題「アルケミスト」)を贈ってくれました。実はパナマで出会った他の友人も以前から勧めてくれていた本。いよいよ読んでみて、とても好きだったのだけど、後半から少しずつ難解になってきて何となく消化不良でした。

これは原文にあたってみたほうが理解ができるかもしれない、あ、これのスペイン語版を読んで寛訳やってみようかな?と思いあたったのでした。実際の原文はポルトガル語なのだけど、僕はポルトガル語がわからないし、ポルトガル語とスペイン語はとても似ているので、スペイン語版の純度はかなり高いはず。

そんなわけで、この本の寛訳をしていくことに決めました。

スタイルはフランス語の時と同じく、日本語版はもう読まず、スペイン語版と辞書を頼りに僕なりの和訳をつくってこのブログに上げていく。区切りは本の節。数えてみたところ全部で56節あるので、1日1節として約2か月、怠けて3か月とかそのくらいかけて、少しずつ進めていきたいと思います。

もし読んでくださる人がいれば、僕の訳が間違えてるかもしれないことにつき予めご了承ください。一度は日本語版で読んだので全体の流れとかニュアンスはそんなに間違えないつもりです。あと文学としての色気はあんまり出せないことも、ご了承いただけると幸いです。

それではごゆるりとお付き合いください。

3 Replies to “錬金術つかい(寛訳1)(“El Alquimista”)”

  1. 私もフランス語で読んだから日本語にしたらどうなるか気になる…楽しみにして待ってる!!!

    1. 私はこれまで英語版でしか読んでなくて、日本語は寛訳で読むことにします。楽しみにしています!

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