錬金術つかい(寛訳17)(“El Alquimista”)

男が肘で突いて彼を起こした。彼は市場の真ん中で眠り込んでいてその広場の活動はまさしく再開されようとしていた。

周りを見て、羊たちを探し、そして別の世界にいるのだと気づいた。悲しく感じるどころか、嬉しく感じた。もう水と食べ物を探し続ける必要はなく、今では宝を探し続けることができた。ポケットには一セントもなかったが、人生への信念があった。彼は、前の晩、冒険家であることを選んだのだった、読み慣れた本の登場人物たちと同じように。

急ぐことなく広場を歩き始めた。商人たちは物売り台を立ち上げていた。菓子屋がそれを組み立てるのを手伝った。その菓子屋の顔には違った微笑みがあった。幸せであり、人生を前に目覚めており、仕事の良い一日を始める準備ができていた。それはある老人を思い起こさせる微笑みだった、出会ったあの年老いて不思議な王だ。

『この菓子屋は旅をしたいから、あるいは商人の娘と結婚したいから甘物を作っているんじゃない。この菓子屋は好きだから甘物を作っているんだ』、少年は思って老人と同じことができることに気づいた。見るだけで、ある人がその私伝説の近くにいるのか遠くにいるのかがわかるのだ。『簡単だ、僕は全然このことに気づいてなかったな。』

物売り台を組み立てるのを終えて、菓子屋は作った最初の甘物を彼にくれた。少年はそれを食べ、感謝して道を続けた。すでに少し遠ざかったときに、その台がアラブ語を話す人とスペイン語を話す人によって立てられたのだと思い当たった。そして完全に理解しあっていたのだった。

『言葉のもっと先をいく言語があるんだな』、少年は思った。『それは羊たちで感じたことだし今度は人間たちと実践しているんだ。』

様々な新しいことを学んでいた。彼がすでに体験していたことであり、しかし、彼に気づかれることがなかったがために新しいことなのだった。そして彼が気づかなかったのはそれらに慣れていたからだった。『もしも言葉のないこの言語の解読を身に着けたら、世界を解読することができるぞ。』

『全てはただひとつのことだ』、老人は言っていた。

急ぐことなく不安もなくタンジェの路地を歩くことにした。こうすることによってのみしるしを感じ取ることができるだろう。これはたいへんな忍耐を要したが、これは羊飼いが身につける最初の能力なのだ。

あらためて羊たちが教えてくれていた同じ教訓をその妙な世界に当てはめていることに気づいた。

『全てはただひとつのことだ』、老人は言っていた。

 

~続く~


1時間6分。

なんとも大変おちついた朝を迎えております少年。肘でどつかれ起こされた金無しの朝なのにすごい。僕はいつもお日様に起こされる職無しの朝ですが、こんなに落ち着けません。少年には追いつけそうもないな。腕っぷしも強いらしいし。

そして『言葉のもっと先をいく言語』言うてますけど・・・それ言うー?むしろ真逆で一つ一つの言葉を読み取るのに苦労している僕に今それ言うー?めっちゃ良いやんそれー。・・・まあ黙ってスペイン語の勉強しますハイ。

とはいえ今回のスペイン語は取り立てて困った表現はなかった。ただフェがでてきたのでこれにします。

No tenía un céntimo en el bolsillo, pero tenía fe en la vida

寛訳:ポケットには一セントもなかったが、人生への信念があった。

Fe。フェ。女性名詞。信用、信頼、信仰、信奉。英語ではfeithにあたる。新型コロナウイルスに立ち向かうっていうのでパナマの大統領の会見とかでもsolidaridad/団結・絆とかと同じようにフェ、フェ、言うてますね。フェ。大事です。

写真はフランスの大学院でクラスメートたちが僕の29歳の誕生日に用意してくれたケーキの食べ終わりです。2013年12月。29歳になった日、忘れることのないケーキのキャンドルでした。最高の仲間たちでした。

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