錬金術つかい(寛訳45)(“El Alquimista”)

少年は一晩中目が覚めたまま過ごした。夜明けの二時間前、彼のテントで寝ていた男の子たちのうちひとりを起こしてファティマが住んでいる場所がどこかを教えてくれるよう頼んだ。共に出かけてそこまで行った。引き換えに、少年は彼に一匹の羊を買うための金を与えた。

それから彼にファティマが眠っている場所を見つけ出して、彼女を起こして彼女に彼が待っていると言ってくれと頼んだ。そのアラブ人の若者はそれをやり、引き換えにもう一匹の羊を買うための金を受け取った。

「それでは私たちだけにしてくれ」、少年はアラブ人の若者に言った、彼は自分のテントへ眠りに戻った、オアシスの相談役を助けたことに誇りを抱きまた羊たちを買う金を得たことに満足しながら。

ファティマがテントの戸口に現れた。二人はヤシの木々の間を歩きに出かけた。少年はしきたりに逆らっていることをわかっていたが、それは今は重要なことでなかった。

「行くよ」、言った。「そして僕が戻るとわかってほしい。君を愛しているなぜなら・・・」

「何も言わないで」、ファティマが遮った。「愛するから愛するの。愛することに何の理由もないわ。」

だが少年は続けた。

「僕は君を愛している、なぜなら夢を見て、王に出会い、ガラスを売って、砂漠を渡り、士族たちが戦争を宣言し、そして僕は錬金術師がどこに住んでいるかを知るために井戸にいたから。僕は君を愛している、なぜなら全宇宙が僕が君のもとまでたどり着くように取り計らったのだから。」

二人は抱き合った。彼らの身体が触れ合った初めてのことだった。

「戻るよ」、少年は繰り返した。

「これまで私は願いを抱いて砂漠を見ていた」、ファティマは言った。「今それは希望になるわ。私の父はある日発ち、でも母のもとへ戻ってずっと戻ってき続けた。」

そしてそれ以上なにも言わなかった。ヤシの木々の間を少し歩き少年は彼女をテントの戸口に残した。

「戻るよ、君のお父さんがお母さんのもとへ戻ったように」、言った。

ファティマの目が涙で満ちていることに気づいた。

「泣いているの?」

「私は砂漠の女よ」、彼女は言った、顔を隠しながら。「でも何よりひとりの女なの。」

ファティマはテントに入った。間もなくして太陽が姿を現した。日中になれば、彼女は何年もの間やっていた同じことをしに出かけるだろう、しかし全ては変わってしまっているのだ。少年はもうオアシスにはおらず、そしてオアシスはほんの少し前まで持っていた意味をもう持っていないのだ。もうそこは五万のヤシの木々と三百の井戸がある場所、巡礼者たちが長旅の末に満足してたどり着く場所ではないのだ。オアシスは、その日から、彼女にとって空っぽの場所なのだ。

その日から、砂漠はもっと重要になる。いつでもそれを見るだろう、彼が宝を探してたどっているに違いない星がどれかを見つけようとしながら。口づけを風と共に送らなくてはならないだろう、それが少年の顔に触れてそして少年に生きている、彼を待ちながら、その夢と宝を探し求めていった勇敢な男を待つ女として、ということを語って聞かせることを願いながら。

その日から、砂漠はただひとつのものになるだろう、彼の戻りへの希望だ。

~続く~


57分。

ドラマチックな惜別の場面。初めて抱きしめ合ったその日から、離れ離れの日々。つのるぅーーー!!!現地でも繋がる携帯電話とか持って行かないの?wifiルーターレンタルしたらどう??

というか、ちょっと気になっちゃったのはさ。「僕は君を愛している、なぜなら夢を見て、王に出会い、(…)そして僕は錬金術師がどこに住んでいるかを知るために井戸にいたから。」ってこれ、どうですか。口説き文句として成立してるんでしょうか?その次のはまあ、先のよりは使える気がするので、スペイン語と共に記しておきます。希望される方はしっかり覚えてご利用の上、ぜひ結果の報告もお願いします。

Yo te amo porque todo el Universo conspiró para que yo llegara hasta ti.

寛訳:僕は君を愛している、なぜなら全宇宙が僕が君のもとまでたどり着くように取り計らったのだから。

他方、砂漠の女の方は、以下の台詞を覚えられるとよろしいかと思います。

Soy una mujer del desierto. (…) Pero por encima de todo soy una mujer.

寛訳:私は砂漠の女よ。(…)でも何よりひとりの女なの。

この部分、以前僕がなんだか好きだと紹介したsobre todo(第32節)の類型で、por encima de todoというふうに書かれています。意味はまあ同じと言って良いでしょうね。このencimaっていうのが個人的にスペイン語学習初期にあまり接しなかったわりに後になって頻出単語だとわかったものなので少し苦手意識があるのですわ。sobreとの関係もわかるようでわからないし。

そんなわけでフラフラーっと検索してみたら、すぐ出てきました、しかもよく使っているSpanishDictから。

“Encima” es un adverbio que se puede traducir como “above”, y “sobre” es una preposición que se puede traducir como “on”. Aprende más sobre la diferencia entre “encima” y “sobre” a continuación.

Encima vs. Sobre | Compara palabras en español – SpanishDict

寛訳:”encima”は”above”と訳すことのできる副詞、”sobre”は”on”と訳すことのできる前置詞。”encima”と”sobre”の違いについては以下でもっとお勉強しましょうね。

んで以下でもうちょっとお勉強してみたんだけど、結論としては、ものすごく近い。覚えておかなくちゃいけない違いは、

  • encimaは副詞なのでその後に語が続かなくても意味が成立する。
    • Tenemos encima la luna./頭上に月が出ている。
  • encimaは何かとの位置関係とかを示そうとするなら前置詞(de)が必要。
    • Deja el libro encima de la mesa./本は机の上に置いておきなさい。
  • sobreは前置詞なので必ず後ろに語が続く。
    • El libro está sobre la mesa./本は机の上にある。

いつの間にかスペイン語つっこんでしまったので、このくらいにしようと思いつつ、ひとつだけ、ファティマはんの思いの部分で繰り返された表現を取り上げたいのです。A partir de aquel día/その日から、です。このa partir de/~から、という成句がフランス語と全く同じ語、語順、意味合いなのです。フランス語を習得した後でスペイン語を勉強し始めたときに、えっこんなに同じで良いの?と驚いた成句だったので、ご紹介しておきたいと思ったのでした。この両言語を勉強した方ならわかってもらえるところだと思うのですが。。

あ、ゴメンナサイ最後にもう一つ。スペイン語の動詞esperar、これ、wait/待つという意味と、expect/期待する・希望する、という意味があります。これもまたフランス語のespérerと全く同じなのですが、この「待つ」と「期待する」が同じ語によって担われているのがなんだか良いなあと思っていて。よく見ると日本語でも「待」っていう字が両方に当てられていて、何か通じるものがあるのかもしれないな、と思いました。そしてesperarの名詞がesperanzaなのですが、ファティマはんにとって、砂漠はこの日から、la esperanza de su retorno/彼の戻りへの希望、なのでした。

さて今日の写真は、しきたりを破ってこっそり抜けだし抱き合ったサンチアゴ少年ファティマはんとは正反対に、しきたりにガッツリ従って満員御礼のなかで二人が身体をぶつけ合う、日本の東京、両国国技館で見た大相撲です。いやあ迫力満点で面白かった!また見に行きたいものです。2016年1月。

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