錬金術つかい(寛訳32)(“El Alquimista”)

ある良き日に少年はイギリス人に本を返した。
「それで、たくさん学んだかい?」、相棒は尋ねた、大いに期待して。戦争への恐怖を忘れるため一緒に会話をする誰かを必要としていた。

錬金術つかい(寛訳30)(“El Alquimista”)

変わった本だった。水銀、塩、龍や王について書いてあったが、彼は何も理解することができなかった。しかしながら、全ての本に繰り返し出てくるひとつの考えがあった、すべてのものはたったひとつのものの表れであるという。

錬金術つかい(寛訳29)(“El Alquimista”)

時としてキャラバン同士が夜に出会うことがあった。いつも片方がもう片方の必要としているものを持っていた、あたかも本当にひとつの手によって全てが記されているかのように。ラクダ引きたちは暴風の情報を交換し合って焚火の周りに集まり、砂漠の物語を話すのだった。

錬金術つかい(寛訳28)(“El Alquimista”)

キャラバンは西の方向へと進み始めた。朝から旅をし、日差しが最も強い時には留まり日暮れには道を続けた。少年はほんのわずかにイギリス人と会話をし、イギリス人はほとんどの時間自分の本で気晴らしをして過ごしていた。

錬金術つかい(寛訳27)(“El Alquimista”)

「私がキャラバンの隊長です」、長い髭と黒い目の男性が言った。「私が共に旅する人々の生と死にかかる権限を持ちます。なぜなら砂漠とは気まぐれな女であり、時として男たちを狂わせるものだからです。」

錬金術つかい(寛訳26)(“El Alquimista”)

『おもしろいな』、少年はその本の始まりにある埋葬の場面をもう一度読もうとしながら思った。『読み始めてほとんど二年になってこれらの頁を読めないなんて。』彼を遮る王はいなかったにもかかわらず、集中することができなかった。まだ決断に疑いを抱いていた。だがひとつ大事なことに気づいていた、決断とは単に何かの始まりだった。誰かがある決断をしたときというのは、強大な流れの中に飛び込んでいるのであり、それはその人を決断したときには夢にも思わなかったような場所まで連れて行くのだった。

錬金術つかい(寛訳25)(“El Alquimista”)

そのイギリス人は建設現場の中に座って、動物たち、汗そして埃のにおいを嗅いでいた。それを集積所と呼ぶことはできなかった、せいぜい囲い場だった。『僕の全人生はこういう場所を通らなくちゃいけないことになってるんだ』、気もそぞろに化学雑誌をめくりながら思った。『十年の学習が僕をこの囲い場に導くとはね。』

錬金術つかい(寛訳24)(“El Alquimista”)

少年は自分の部屋に戻って全ての持ち物をまとめた。もう立ち去ろうというとき、隅に投げつけられていた、羊飼いの古い巾着に気が付いた。その中にはまだ同じ本と上着があった。この最後のものを取り出し、道端の子どもにでもあげようと考えていたとき、二つの石が床を転がった。ウリムとトゥミムだった。

錬金術つかい(寛訳23)(“El Alquimista”)

少年は日が出る前に目覚めた。彼がアフリカ大陸を初めて踏みしめてから十一か月と九日が過ぎていた。
彼はアラブの服、白い麻でできた、その日のために特別に買ったものを着た。頭にはスカーフを着け、ラクダの皮でできた輪で留めた。新しいサンダルを履いて物音を立てずに降りた。