錬金術つかい(寛訳21)(“El Alquimista”)

二か月以上が過ぎて重ね棚はガラスの店に多くの客を呼び込んだ。少年はあと六か月働けばもうスペインに戻り、六十匹の羊にさらにもう六十匹まで買うことができると計算した。一年もしないで群れを倍にしてアラブ人たちと商売ができる、というのもすでにその異国の言語を話せるようになっていたのである。市場でのあの朝からウリムとトゥミムを再び用いることはなかった、なぜならエジプトは彼にとってあまりに遠い夢になってしまったのだ、商人にとってメッカの町がそうであったように。しかしながら、少年は今や仕事に満足していて勝者としてタリファに上陸するときのことをいつも考えていた。

錬金術つかい(寛訳20)(“El Alquimista”)

第二部
少年はほとんど一か月ガラス商人のために働いており、それは彼を幸せにする類の仕事というわけではなかった。商人は一日中陳列台の後ろでぶつくさ言って過ごし、商品に気を付けるように、何も壊したりしないようにと要求していた。

錬金術つかい(寛訳19)(“El Alquimista”)

扉には案内札がありここでは多様な言語が話せるとあった。少年は陳列台の後ろに男が現れるのを見た。
「これらの水差しを磨きます、もしあなたさえよければ」、男の子は言った。「今のこのような感じでは、誰も買いたくならないでしょう。」

錬金術つかい(寛訳18)(“El Alquimista”)

ガラス商人は日が明けるのを見て毎朝感じるのと同じ苦悶を抱いた。その同じ場所、買い手が滅多に通らないような坂道の上にある店で過ごしてほぼ三十年になっていた。今や何を変えるにも遅かった。人生でできる唯一のことはガラスを買って売ることだった。

錬金術つかい(寛訳16)(“El Alquimista”)

『なんて変わってるんだアフリカって!』少年は思った。
町の狭い路地に見つけた他と同じような一種のバーに座っていた。幾人かは巨大なパイプを吸っていて、それは口から口へと回されていた。数時間のうちに手をつないだ男たち、顔を覆った女たちそして高い塔に上って歌い始める僧侶たち、その間まわりにいる全てのものは跪いて頭を地に打ちつけていたのを見た。

錬金術つかい(寛訳15)(“El Alquimista”)

小さなタリファの町の高台にはムーア人によって造られた古い要塞があり、その壁に座った人は広場、ポップコーンの売人とアフリカの一部を同時に見ることができる。メルキセデク、サレムの王は、その午後要塞の壁に座りその顔に東風を感じた。羊たちはその脇でそわそわしていた、新しい飼い主への恐れと、あまりの変化への興奮を以って。彼らが欲する全てのものというのはせいぜい食べ物と水だった。

錬金術つかい(寛訳14)(“El Alquimista”)

次の日、少年は老人と正午に会った。六匹の羊を連れていた。
「驚きました」、言った。「友人がすぐに羊たちを買ったんです。人生ずっと羊飼いになることを夢見ていたからこれは良い兆しだと言っていました。」
「いつもそうなんだよ」、老人は言った。「これを恵みの始まりと呼ぶ。初めてカードゲームをやると、ほとんど間違いなく勝つことになるだろう。始めたばかりの人の幸運なんだよ。」

錬金術つかい(寛訳13)(“El Alquimista”)

『あの老人に会った時間はなんだったんだろう』、と思った。夢を解釈する女性に会いに行っただけだった。女性も老人も彼が羊飼いであるという事実を重要視していなかった。孤独な人たちで、もう人生をあてにしておらずまた羊飼いがその羊たちを好きになっていくものだということを理解していなかった。彼は彼ら一匹一匹の細かいことまで知っていた。どれが足を引きずっているか、どれが二か月もすれば子供を産むかそしてどれが最も怠け者か。どのように毛刈りをしてどのように殺すかも知っていた。もし出発を決めたなら、彼らは苦しむだろう。

錬金術つかい(寛訳12)(“El Alquimista”)

少年は本を読もうとしたが、もう集中することができなかった。そわそわして緊張していた、というのも老人が真実を言ったのだとわかっていたのだった。売人のところへ行ってポップコーンを一袋買いながら老人が言ったことを彼に話して聞かせてやるべきかと思いにふけった。『時には物事をあるがままに放っておくほうが良い』、男の子は思い、そして何も言わなかった。